利害一致の契約婚だったはずなのに、激しい愛が注がれるようになりました。
 楓は決して話が上手い訳では無いのだけど、営業課のエースなだけあって相手からの信頼を得る力があるのか、一時間も経つ頃にはすっかり私の家族とも溶け込んでいた。

「そういえば貴方たち、一緒には住んでいないのよね? 結婚してから合わなかった……なんて事になったりしないのかしら?」
「え? でも行き来くらいはしてるんでしょ? お泊まりとかさぁ」

 母と妹のそんな質問が出て、私はちらりと楓を見る。

 当然、お互いの部屋に行き来した事なんて無い。そもそも別に付き合ってた訳でも無い私たち。

 楓のご両親もその事を気にはしていたけれど、今更一緒に住む訳にもいかないし、お互い自分のペースや趣味に口出しさえされなければ特に拘りも無いから相手が誰であっても構わない……そう感じて一緒になる決意をしているのだもの。

「そこはまあ、頻繁にという訳でも無いですが多少の行き来はしていましたし、二人とも生活においての環境や考え方が似ているので、大丈夫だろうという事で同棲はしないままで結婚をする選択をしました」
「そうそう。私たちお互いの事分かり合ってるから大丈夫! 別れるなんて事にもならないから」

 楓の言葉に便乗する形で私も言葉を重ねていくと、「ほらね? 今どきはそんなモンだよ。結婚してから一緒に住むとかも別に普通だって~」という妹の言葉にも助けられ、「そうよね。お母さんたちとは時代が違うものね。二人が大丈夫だって決めたなら平気よねぇ」と不安要素が取り除かれたらしい母が納得してくれた事で話は終わりになった。


「楓、今日は本当にありがとう。わざわざこんな遠い田舎まで足を運んでくれて」
「当然じゃん。俺ら結婚するんだから。まあとりあえず、無事にお互いの両親からの了承が得られて良かったよ」
「本当にね」
「そういえば新居の事だけど、本当に俺の方で決めちゃっていいの?」
「うん、勿論。だって楓のご両親が出資してくれるんだもの、私は住まいに拘りも無いから、お任せするわ」
「分かった。とにかく互いのプライバシーが守られるような部屋を探しておくよ」
「ありがとう」

 結婚後の住まいについては、この前楓のご両親から話があって、お祝いも兼ねて是非笹葉家から金銭面での援助をという話があって初めは断るべきか悩んだものの『お祝い』と言われてしまうと断りにくく、結局厚意に甘えて援助を受ける事に決めた。

 本来ならば一緒に探すべきなんだろうけれど、これから式の打ち合わせなども入ってくるし、仕事の方も結婚後夫婦共に同じ部署では働けない事もあって、私が異動する関係で引き継ぎやらやる事も多い中、とてもじゃ無いけど新居探しにまで時間や労力を割けなかった私は家に特に拘りもない事から、楓の方で決めて欲しいという事を告げたのだ。
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