私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 こんな高給な仕事、ほかにはない。
 最初は風俗店かもと怪しんだが、調べてみたらちゃんとしていたから応募したのだ。
 がんばって研修を乗り切らなくちゃ。
 一鈴は改めて自分に気合を入れた。



 婚約者の発表は日曜日、本邸のリビングで行われる。
 執事の時任とメイド長の多美子は前日からピリピリしていて、メイドも従僕も準備に大忙しだった。
 一鈴も本邸に呼ばれ、あれこれと言われて走り回った。

「どうしよう、家具を動かしたら絨毯にへこみが」
 玉江の声が聞こえて、一鈴は立ち止まる。
「それなら、ドライヤーで直るかもしれませんよ。霧吹きで水をかけてから温風をあてて、優しくブラッシングするんです」
「ありがとう、やってみるわ!」
 玉江が喜んでドライヤーを取りに行く。
 役に立てたかな、と一鈴は笑みを浮かべた。

 当日、多美子の命令で先輩メイドとともにリビングで控える。
 なんで私が、と思うが逆らえるはずもない。
 改めて見るリビングはやはり豪華だった。
 高い天井にきらめくシャンデリア。オフホワイトの壁には大きな絵画があり、青が印象的な木々の間に白い馬がたたずんでいた。
 絨毯は落ち着いたグレージュ。家具はヨーロピアンで統一されていた。白いグランドピアノには金の装飾が施されていた。

 まず当主である滉一と妻の恭子、主役の穂希がリビングに来た。
 滉一と穂希はスーツだった。恭子は黒いワンピース姿だ。
 いつの間に来たのか、ピアニストが静かな曲を奏で始める。
 ぞくぞくと客が集まって来た。嶌崎家、倉持家、吉岡家、一条院家。合計十五人。
 先輩メイドがお茶を配り終え、ソファに座った彼らは緊張しながら談笑している。

 佳乃と莉衣沙はワンピースできれいに着飾っていた。
 香珠萌の服はいつも通りカジュアルで、スマホは控えているが、ポケットに手をつっこんで馬の絵を眺めていた。
 爽歌は今日も着物だった。光沢のある生なりの正絹(しょうけん)に赤とピンクの牡丹が華やかだ。帯留めはパールとルビーが使われていた。

 恭子が嶌崎家と一条院家に話かけ、ときおり莉衣沙が割り込む。吉岡家はもっぱら聞き役だった。
 穂希は無関係だと言わんばかりにタブレットを見ている。
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