私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 暇なので、一鈴は心の中で実況を始めた。

 さあ、スタートしました婚約競争、御曹司を射止めるのは果たしてどのご令嬢か!
 嶌崎ホールディングス、銀行頭取の娘がリード、クラモチ運送、負けじと追い上げる。吉岡製パンどうした、気力がないぞ!
 御曹司はまだタブレットを見ている!

 穂希がふいに顔をあげ、一鈴を見てふっと笑った。
 え!?
 一鈴はどきっとした。

 ピアノの演奏が終わり、滉一が立ち上がった。
「お集まり頂き、ありがとうございます」
 その場に緊張が走った。
「この一カ月、合わないと感じた場合にはお帰り頂く約束でしたが、残られたからには結婚の意志ありと判断いたします」
 一鈴はふむふむと聞いた。
「穂希、どなたと結婚するんだ」
 本題が来た!

「決めないといけませんか」
 穂希がうんざりしたように確認する。
「なんのために集まってくださったと思っているんだ」
 そうだそうだ。今日のためにメイドは右往左往したんだから。
 一鈴は内心で野次を飛ばす。

「この中から選べばいいんですね」
「そうだ」
 念を押すように穂希が言い、滉一が頷いた。
「では」
 穂希はタブレットを置いて立ち上がった。

 一鈴の中でドラムロールが響く。
 穂希は一鈴たちメイドが並ぶほうへ来た。
 もったいつけるなあ。
 一鈴は頭の中でドラムロールを鳴らし続ける。

 が、すぐに中断された。
 なぜか穂希が自分の前で立ち止まった。
 あれ、と見上げると、目が合った。

 にやりと笑った彼が一鈴の手を取る。
「彼女と結婚します」
 一鈴はあんぐりと口を開けた。
 穂希に肩を抱かれ、周りを見回した。
 この場にいる全員が自分を見ている。
「嘘でしょ!?」
 穂希は酷薄な笑みを浮かべ、周囲を睥睨(へいげい)していた。
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