家出少女の反抗
車の音が聞こえてきた。
玄関のドアを見ると、バックライトの逆光が光る。
お母さんだ。
ーーー今度の今度こそ言おう。
もう耐えられない。
お母さんを騙している、私自身も。
「ただいま。霞。ご飯食べた?」
疲れ果てて帰ってきた母親の姿は、化粧も施していないせいか、肌がボロボロのように見える。
潤はどうしてお母さんの援助をしているはずなのに……お母さんがこんなに働いてるの?
まさかーー嘘だったりするの?
目には隈が至るところにチラホラと、垣間見えた。
その姿が潤がお母さんの精神力を吸い取って遊んでいるのを想像できたみたいだから、何だか鳥肌が立った。
確信は無いんだけど。
「食べたよ。お母さんはご飯食べてきたの?」
玄関口で倒れそうな母親の体を支え、何とかリビングのソファーに座らせる。
見るからにきつそうだけどーーーでも、やんなきゃ。
今は八時に仕事が終わって、早く帰ってこれた日。
この日なら、絶対に言える。
冷蔵庫の残りは何かあったかなと、物色しシーチキンカレーを手に取り、お湯で沸騰させ沸かす。
いつ言えばいいのかという、時間を迫られるみたいにチカチコなる時計の音が、心臓に響く。
ーー早くいいたいのに、言葉がつっかえて変なふうに事がすすんじゃう……。
息を吸い込んで、心を整える。
大丈夫。
やれるって。
「ところでさ、お母さん」
「なあに?霞?」
お湯が鍋で沸騰して、水が少し溢れる。
私は急いでそのお湯を止めて、市販のカレールーを袋のまま茹でる。
時間は5分でご飯は昨日炊いたやつがあるから、温めればいい。
「潤……さんのこと今でも好き?」
グツグツと魔女の料理でも煮てるのかというくらい、鼓膜を劈く。
ベッドで寝そべっていた、お母さんはこちらに顔を上げて「当たりまえじゃない。好きよ」とほくそ笑んだ。
「そっか………」
「どうしたの?急に改まって」