ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活
「わかった」

 私は勇人の腕の中でそう頷いた。すると彼も浅く頷くと私の唇に自身の唇を重ねてきた。
 私は今、ゾンビとキスをしている……。

(多賀野くんとキスするなんて)

 私の唇を割って入った彼の舌は熱くなくてほんの少し冷たい。唾液も私と比べると少ないように思う。
 どれだけ舌を絡め合っても、彼の舌の温度が上がる事も無ければ息が上がる様子も顔を紅潮させる様子も見られない。
 私の反応とは真逆だ。

「……っ」

 唇を離す。彼の顔つきは変わらない。私の身体は熱くなっているのに。 
 これが死んだ人なのか。ゾンビと言うものなのか。

(ゾンビとキスしてしまった……)
「血も、良いケド……キスも良いな……」

 彼は目を細めながらそう浮ついたように呟いた。
 それから気がつけば日は落ちて夜を迎えていた。辺りは真っ暗だ。

(うわ、もうそんな時間か)

 ちょうどお腹も空いてきたので、私は冷蔵庫の中身を探し始める。野菜はあるし冷凍されたお肉もいくつかある。

(ご飯もあったかな)

 ご飯は朝、母親が炊いたものがまだ炊飯器の中に残っている。これでおにぎりにでもしようか。

(後は……味噌汁作るか。冷凍しているお肉は早い事使った方が良い、か……)

 体調を崩していたのが嘘のように考えが冴えているしいつの間にか倦怠感も消えていた。
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