蜜月溺愛心中
椿が言葉を発する暇がないほど、三人は代わる代わる怒鳴り付ける。何度も言われ、聞き慣れたはずの言葉なのだが、罵声を浴びせられるたびに椿の心に新しい傷が増えていった。

「お父さん、お母さん、梓……」

震える声で何とか三人を呼ぶ。しかし、椿の言葉は三人に届くことはない。智也が言った。

『役立たずは家にいらない。入院費は払ってやるから出て行け!』

「えっ?何を言ってるの?お父さん!」

椿が大声を出した時には、もうすでに電話は切られていた。慌ててかけ直したものの、電話は繋がらず、無機質な機械音が響くばかりである。

「どうしよう……」

退院した後は帰る家がない。着るものもないまま家を追い出されたことに、椿の頭は絶望でいっぱいになっていく。

「何で私、生まれてきたんだろう……」

体を壊してしまっても、家族から心配されることなく逆に罵倒されている。生きている理由がもうわからない。何のために生まれてきたのか?あの三人は奴隷として自分を見ていたのか?目の前がぼやけ、涙が溢れていく。

「ッ!」

声を押し殺して涙を拭っていると、病室の扉がゆっくりと開く。顔を上げれば、そこには清貴が立っていた。

「せ、先生!!」

見られてしまったことがただ辛く、椿は目を乱暴に擦る。しかし、その手は素早く清貴に掴まれてしまった。
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