蜜月溺愛心中
「その歳で水族館に行ったことないって、ひょっとして家が貧乏なの?お金目当てで清貴くんと結婚したのかしら?清貴くん、可哀想〜。貧乏人にATM扱いされちゃうなんて」

姫乃は清貴に抱き付いたまま、椿を見てクスクスと笑う。その瞬間、椿の目には梓が重なって見えた。人を見下し、嗤い、平気で人を罵ることができる。そんな梓が重なり、椿の体は震えた。

「ち、が……違い、ます……。わ、私の家、は……」

声を震わせながら説明しようとするも、「え〜?何?聞こえないんですけど〜!」と姫乃の大声にかき消されてしまう。椿の目の前がぼやけていった。

「おい、いい加減にしろ!!」

「姫乃。さっきからお前、何なんだよ。言っていいことと悪いことがあるだろ?」

清貴と翔太が姫乃を睨み付け、怒鳴る。人の視線が集まるものの、怒りに満ちた清貴たちにその視線は無意味なようだ。目に涙を浮かべる姫乃も、ジロジロ見られていることに気付いていない。

「だって、清貴くんと私は高校生の頃付き合ってたじゃない!いつも図書室で勉強を教えてくれたし、ホテルだって行ったのは一回だけじゃなかった。私にその気がなくても、体調が少し悪くても、清貴くんは私を求めてくれたじゃない!その過去をなかったことになんてさせないわよ!」

「は、はぁ?お前何を言ってるんだ。お前と付き合ったことなんて一度もないし、ホテルに行ったこともないぞ!!」
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