蜜月溺愛心中
景色を見つめ続ける椿の隣に清貴が並び、同じように街や山を見つめる。夕焼けがこの街と山を優しく燃やしていく。その炎が消えると、漆黒の闇が訪れ、人々に安息の時間をもたらす。いつもと変わらない夕焼けのはずだが、椿の胸は大きく揺さぶられていた。

「とても、とても、綺麗です」

その一言しか、口からは出てこなかった。もっと色々なことを頭では考えていたはずだった。しかし、「綺麗」という一言しか出すことができない。

「……ああ。本当に綺麗だ」

清貴の視線を感じながら、椿は夕焼けを見つめる。手すりに置いた椿の手に、清貴の手が優しく重なった。その手の体温にずっと触れていたいと椿は願う。先ほど、八坂庚申堂で書いた願い事が椿の頭の中に浮かんだ。

(私の、この胸の中にある気持ちはーーー)

答えがすぐそこまで迫ってきている。視線が強くなり、顔を景色から左に向ければ清貴がこちらを見ていた。夕焼けのせいか、顔が赤く染まっている。

「椿」

自分の名前を、真剣に呼ぶ時にだけこの名前を好きになれる。自分だけが名乗ることを許された特別な名前だと思ってしまう。
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