蜜月溺愛心中
そばにいてほしい
着物の返却時間が迫ってきたので、清水寺を出てすぐに椿と清貴はレンタル着物屋へと向かう。そして返却を無事に終えた後、宿泊する旅館へ向かうことになった。清貴がタクシーを止め、椿を先にタクシーの中へと誘導する。

清貴は椿の隣に座った後、「甘露へお願いします」とタクシー運転手に告げる。甘露というのは泊まる旅館の名前だ。

「泊まる旅館、甘露と言うんですね。どんなところなんですか?」

泊まる旅館の予約は任せてほしい、と清貴に言われたため椿は泊まる旅館のことは何も知らなかった。椿が訊ねると、清貴は「すごくいいところだ。まあ、ついてからのお楽しみというやつだな」と微笑む。

タクシーに揺られること二十分。椿と清貴の前に旅館甘露が姿を見せる。旅館を見た刹那、わくわくしていた椿の心は一瞬にして緊張に包まれていった。

「き、清貴さん!」

「ん?何だ?」

「あの、ここに泊まるんですか?」

「そうだ」

サラリと言った清貴に椿は緊張が増してしまう。胃がキリリと痛みを訴え始め、手が震えた。
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