意地悪な俺様上司と秘密の同居生活~異性には無関心だと思っていた彼だけど、結構独占欲強めの人でした~
「ご馳走様でした」

 店を出た私は、本当は下げたくないけど奢ってもらった事には感謝しているのでお礼を口にしながら頭を下げる。

「何だか腑に落ちないって表情だな?」
「……いえ、そんな事はありません」
「そうか? まぁ、俺は別に気にしてないからいいけど、さっきの事で怒ってるんだろ?」
「別に、怒ってなんかいません。呆れてるだけです」
「ほお……。結構言うよな、お前」
「最低な人を相手に遠慮なんてしません」

 一刻も早く日吉さんの元から離れたかったのに、何故だか突っかかって来る彼。挑発に乗るつもりも無かったけど、相手がその気ならば遠慮するのを辞めようと、思った事をはっきり伝えると、

「お前、本当いい根性してるよ。そういうの、嫌いじゃないぜ。気に入ったわ」

 何故だか嬉しそうに言った。

(はぁ? 何、気に入ったって。普通、怒るところじゃないの?)

 何だかもう、彼の事が全く分からない。それに、こんな状況で気に入ったなんて言われても嫌な予感しかない。

「仕事、一生懸命頑張るんだったよな? 俺は教育係として、それに応えるだけだ。雑用ばかりじゃ物足りないねぇだろうからな、明日から覚悟してろよ。それじゃあな」

 楽しそうな表情を浮かべた日吉さんは意味ありげな言葉を残し、駅の方へ歩いて行ってしまう。

「……最悪……本当に、最悪っ!!」

 苛立ちにプラスして明日から何が起きるのか分からない不安。そんな様々な思いを抱えた私は人目も気にせずそう声を荒らげながら言い放つと、日吉さんから少し遅れて私も駅へ向かって行ったのだった。
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