惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「陽、保健室に――陽?」


 見上げたモモは俺の様子がおかしいことに気づいて、不思議そうな顔をしてる。

 片手が伸びてきて、モモの温かい手が俺の頬を包む。

 ふわりと香ったモモの匂い。

 嗅いだことのある、俺の好きな匂い。

 爽やかで、甘さもある花の香り。

 俺を優しく包んでくれる匂い。


「モモ?……そうだ、この匂い――っく!」


 これは――“二年前に嗅いだ”匂いだ。

 モモの匂いに導かれて繋がる記憶。

 忘れていた記憶が一気に戻って来てめまいがした。

 奥底に閉じ込められていたものが、弾けて溢れたような感覚に頭痛がする。


「陽!?」


 モモの声が聞こえる。

 でも、応える余裕も無くなってきて……。


「痛ぇ……」

「は、陽!?」


 立ってもいられなくなって、モモの方に倒れ込んだ。


「陽、陽!」


 モモの声を聞きながら意識を手放した俺は、夢の中で二年前の記憶を思い出していった。
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