惑わし総長の甘美な香りに溺れて
***

 南香街の禁止区域。

 二年前はまだ今ほど出入りも厳しくなかった。

 今ではNの製造をしてる場所だけど、その頃はまだNも開発されたばかりだったろうし。

 というか、元々はNなんて危険な香りを作る予定じゃ無かったんだ。

 研究者だった俺と笙の父親がしていた研究は、薔薇の香りが持つ効能を強めて医療にもっと積極的に活用出来る薔薇を作るためのものだった。


 薔薇にはたくさんの効果がある。

 美肌、不眠解消、抗うつ、鎮痙、防腐……他にもたくさん。

 それらの効能を強める研究の過程で、強い催眠効果を取得してしまった。

 南香薔薇(なこうそうび)って名づけられたその薔薇で作られた香りには、人を意のままに操ってしまえるほどの催眠効果があった。

 それをどこから聞きつけたのか、裏社会でかなり上の地位にある啼勾会に目をつけられた。


 啼勾会会長の甲野は研究所ごと買い取って、そのままNの製造施設にしてしまったんだ。

 父さんたち研究者も『家族に危害を加えられたくなければ従え』と脅されて強制的にNの研究を続けさせられた。

 でも、元々は人の役に立つものを作ろうとしてた父さんは密かに南香薔薇の催眠効果を消す研究をした。

 そうして出来たのが、南香薔薇から催眠効果だけを消す酵素を作り出すことが出来る薬。

 成功(サクセス)という意味を込めて、父さんはSと呼んでた。
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