惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「っ……は、陽?」


 熱っぽい眼差しに見つめられただけで胸がドキドキと高鳴った。

 しかも陽は私の手を自分の胸に当てる。

 シャツだけの体は胸板の硬さをすぐに伝えた。


「やべぇ……わかるか? モモ。俺、めっちゃドキドキしてる」

「そっそう、だね!?」


 陽の言う通り手のひらに陽の心臓の鼓動が伝わってくる。

 でも、私も同じくらいドキドキしてるから早いのかどうかはわからない。


 陽、いったいどうしちゃったの!?

 いきなり倒れて起きたと思ったら、メチャクチャ甘ったるくなってるし!


 私を見つめて近づいてくる陽の薔薇の香りも相まって、甘さにクラクラしてしまう。

 そのまま自然と唇が触れそうになったけど――。


 コンコン


 ドアがノックされる音が聞こえて、私はバッと陽から離れた。

 び、ビックリした。

 目の前の陽はムスッと不機嫌顔になってるけど、誰か来たのに続きする訳にもいかないよね。


「失礼します。息子が倒れたと聞いて……」


 控えめにドアが開けられて、馴染みのある声がした。

 お義母さんだ。早いな、もう来たんだ。

 さっき連絡したばかりだからもう少しかかるかと思ったんだけど。


「あ、おか――」


 こっちにいるよと知らせるために声を掛けようとしたけれど、掴まれたままの手を引かれて途中で止まる。
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