惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「モモがかわいいって言ってる俺が多分本当の俺。……でも、SudRosaの総長として二年過ごした危険な俺も、もう俺の一部になってる」


 与えられた熱のせいで潤む私の目は、かわいいも危険も全部を内に秘めている陽という一人の男を映す。


「今の俺は、こんな風に色んな顔を持ってる。それでも、萌々香は俺のこと好きでいてくれるか?」


 ちゃんと名前で呼ばれたことで、本気で知りたいと思ってるんだってわかった。

 でも、その答えはもうとっくに出していたはずなんだけどな?

 思わずフフッと笑って、私は掴まれていない方の手を陽の頬に当てた。


「前にも言ったでしょ? どっちの陽も好きだって。……もうとっくに陽にハマッちゃってるんだよ? 私」


 言い終えると、私は不意打ちのように陽の唇へ自分のそれをくっつける。

 陽みたいに上手いキスなんて出来ないから、本当に触れるだけ。

 離れてキョトンとかわいい表情をした陽を見て、照れくさくてはにかんだ。


「っ! モモ!」


 するとすぐに陽が唇を押し当てる。

 柔らかい舌も入ってきて、深くなるキスに頭の奥まで痺れていく気がした。


「モモ……かわい。……ヤバ、キスだけで止まれるかな?」

「そ、そこはちゃんと止まって」


 すでに理性は溶けかけていたけれど、不穏なことを言う陽にはちゃんと注意させてもらう。


「ん、努力する」


 一言だけ告げた陽は、そのまま私を甘い薔薇の香りで包んでいった。
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