惑わし総長の甘美な香りに溺れて
薔薇姫
「あまり時間を置くと、俺の記憶が戻ったことを勘づかれるかもしれない。だから、明日の夜にでも南香街に行こうと思う」

「うん、わかった」


 そんな会話を交わして、私たちは翌日いつも通り学校へ向かう。

 極力普段と同じように過ごしていたけれど、夜のことを考えると緊張して授業に身が入らなかった。

 陽は普段から学校での人気者とSudRosaの総長を使い分けていたからかな?

 休憩時間や昼休みに見た様子ではまったく緊張しているようには見えなかった。


 ともあれ時間は過ぎるもの。

 放課後になって、私は陽を待ちながら夜のことを考えていた。

 荷物はあまり多くない方が良いよね。

 でもあれは絶対に持っていかないとだし、スマホは必須だし……。

 指折り数えながら考えていたけれど、今日の隣のクラスはHRが長引いたのかなかなか終わらないみたい。


 景子と加藤くんはそれぞれ部活に行っちゃって、私だけ一人教室で陽を待っていた。

 しばらくすると隣のクラスが騒がしくなってくるのを感じる。

 ドアが開く音も聞こえて、そろそろ陽も来るかな? と鞄を持ってちょっと待ってみた。

 でもいつもなら飛んでくるような陽が来なくて疑問に思う。

 誰かに引き留められてるのかな?

 そう思って私の方が隣のクラスへ向かったけど、教室に陽はいなくて……。


「あ! えっと……藤沼さん?」

「え? あ、えっと……」


 声を掛けてきたのはよく陽と一緒にいるサッカー部の男子生徒だ。

 クラスが一緒になったこともないから、顔は覚えていても名前が曖昧で出てこない。
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