惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 いくつかの小部屋を突き進み、そして大きな窓がある広めの部屋についた。

 窓の外も室内みたいだったけれど、明るくてその光景がよく見える。

 青い薔薇が咲き誇る、薔薇園が広がっていた。

 もしかしてこれが南香薔薇?


「なんだ? 呼んだのは笙だけのはずだぞ?」

「っ!?」


 静かで落ち着いた声。

 でも、どこか恐ろしさを感じる低い声に窓とは真逆の場所を見る。


「っ! 陽!」


 色々な機械が設置してある壁。

 その横の棚には色んな薬品らしき瓶がたくさんあった。

 そこに、車椅子に乗った初老の男性と大柄な男二人に押さえつけられている陽がいた。


「も、も……来ちゃった、のか」


 顔を上げた陽は殴られたのか頬が少し赤い。

 申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。


「ふん、笙も裏切ったということか。従順であればこれからも手駒として使ってやったというのに」


 車椅子の男はつまらなそうに告げる。

 よく見ると、その手には見覚えのある青紫の液体が入った試験管があった。

 それが入っていたケースは床に落ちていて、男が持っているのがSだってわかる。

 もしかしてこの人が啼勾会の会長……甲野?
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