惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 静かになった部屋の中、窓の外の南香薔薇だけが美しく咲き誇る。

 花そのものに罪はないけれど、見ていると複雑な感情が湧き上がってきた。


「くっう……」

「陽? 大丈夫?」


 呻く陽にハッとする。

 そうだ、休ませなきゃ。


「どこか座る? それとも横になった方が良い?」

「ん……座れればいい」


 少し甘えるような陽の様子に、私はこんなときだって言うのにキュンとしちゃう。

 でも本当に休ませなきゃ。

 部屋の中をぐるりと見回すと、機材が置かれた場所の前に背もたれのある椅子があった。


「陽、ちょっと立てる?」

「ああ」


 移動するのを手伝って、陽を椅子に座らせる。

 はあぁー、と息を吐きながら背もたれに体を預けた陽は、体よりも心が落ち込んでいるように見えた。


「……失敗、しちゃったな」

「陽……」

「予定外に甲野が来ていたせいで、この部屋に来るのが遅くなった。それでもあいつらが帰ったのを確認してからSを使おうとしたんだけど……気づかれちゃったみたいでさ」


 それでこのザマ。と、乾いた笑いを浮かべる陽に私はどう声を掛けようか迷う。

 その間に陽の視線が機材のある部分に向かった。
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