惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「ねえ、隣歩いてるの陽くんだよね?」

「う、うん。……てことはまさかあの子って」


 ザワザワと、私が誰なのか気づかれ初める。

 うぅ……教室入るの勇気いるなぁ……。


「モモ、俺一緒に行こうか?」


 私の弱気を感じ取ってか、陽が心配そうに聞いてくる。


「だ、大丈夫……でも、カバン置いたらすぐ来てくれると助かるかも」

「わかった」


 いくら何でもずっと付き添ってもらうのは情けなくて。

 でも、正直どんな反応をされるのかわからないからちょっと怖い。

 今のところ悪い感情は持たれてない気がするけど、なんで今まで隠してたのかって非難するように聞かれるかもしれないし……。

 だからいつもと同じように陽に来てもらえれば安心かなと思ってお願いした。


「じゃ、すぐ行くから」

「うん」


 陽が隣の教室に向かうのと同時に深呼吸をする。

 そして覚悟を決めて一気にドアを開けた。


 ガラッ


 開けたからってすぐに注目が集まるわけじゃない。みんなそれぞれ仲間内で会話してるから。

 でも、席に着く頃には教室内全員の注目を浴びちゃってた。


「え⁉ 藤沼さん!?」

「髪どうしたの!?」


 近くの女子が真っ先に驚きの声を上げた。


「ボブからロングなってるし、染めたわけじゃないよね?」

「でもウィッグにしてはムラがあるし……え? まさか地毛なの!?」


 詰め寄られてたじろぐけれど、予想の範囲内だったから私は問題なく答える。
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