惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「えっと……あの後ね、南香街で陽に会ってさ」


 あんまり嘘をつくとボロが出ると思って、とりあえず話せそうなことを話していく。


『陽くん? あ、陽くんの用事ってのも南香街だったの?』

「う、うん。そうだったみたい」


 そうだ、陽にも用事があるみたいだってことは伝えてたんだっけ。


『てことはあの後陽くんといたの? 電話にも出ないなんて……まさかついに陽くんに食べられちゃった?』

「は、はぁっ!?」


 口調から、からかわれてるのはわかっていた。

 でも、景子の言葉は昨日のホテルでの出来事を思い出させるには十分なもので……。


『モモからは甘い匂いがするんだ……ほら、こうするともっと甘くなる』


 熱で苦しむ中言われた言葉。

 甘い囁きはまだ耳に残っていて……。


『なーんて――』

「た、食べられてなんかないからね!? ちょっと、きわどいことはされたかもしれないけれど!」

『え?』

「あ……」


 沈黙。

 ちょっ! これ、自分からなにかされたって言ってるようなものじゃない!?
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