惑わし総長の甘美な香りに溺れて
 何か重要なものが一本の線で繋がりそうな気がしたけれど、その線はまだ少し宙を浮いているようで掴めない。

 掴めなくて、分からないけれど、言わない方がいいって判断した。

 だからあのとき私は、カラカラになった口を紅茶で湿らせてから『さあ、知らないです』と答えたんだ。


「モモ? どうした?」

「あ、ごめん」


 つい考え込んじゃってた。

 かがんだ陽のキレイな顔が私をのぞき込んできて、ハッとする。


「用事は終わったから、帰ろうぜ?」

「うん」


 差し出された手を取って、立ち上がる。

 とにかく陽の言う通り早く帰らないと。

 ここは所々でNのスパイシーな薔薇の香りがほのかに香っている。

 薔薇は好きだけれど、危険な香りでしか無いNの香りがする施設になんて長居はしたくなかった。
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