不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。
清掃員と不機嫌な男と……

 ***

 私は現在、清掃の仕事をしている。以前働いていたブラックな会社は辞め、紫門さんから紹介されたホワイトな会社で働いていた。今は委託された大きな会社のフロアーを掃除している。モップを使って床を磨いていると、こちらの会社の社長に声を掛けられた。

「ご苦労様」

 社長は38歳と言う若さでこのグループ会社を率いている実力者で、温和な表情とは裏腹に、仕事に関しては冷徹でかなりのやり手なんだと噂で聞く。そんな企業のトップを務めるような人が、私を見かけると声を掛けてくれた。出来る社長は、私のような底辺の人間にも親切にしてくれるものなのだなと思いながら、私は社長からの挨拶に頷くだけの挨拶を返した。周りから見たら何て愛想のかけらも無い女なんだと思われているだろう。しかしそれも仕方が無い。私はスーツ姿の男性が苦手だ。それは前の会社、ブラック企業の上司を思い出すからだった。

 菫花はブルリと体を震わせると、フロアーの端により呼吸を整える。

 フーッ……大丈夫、私は大丈夫と、自分に暗示を掛け、顔を上げるとそっと肩を叩かれた。



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