不倫日和~その先にあるもの……それは溺愛でした。
日常とすれ違いと……
 
 *

 ある日の仕事帰り、スーパーの食品棚にはイチゴが整然と並べられ、辺りは甘い香りで包まれていた。それを思わず手に取り、明日の昼食に蒼紫さんと一緒に食べようかと考えながら、幸せな気分に浸っていた。

 そんな平凡な日々が続いていたある日のこと――。

「あんたが蒼紫の女?」

 突然目の前に現れた女性を見つめながら、菫花は目を瞬かせた。 
 
 女性は長い髪をなびかせながら、私に詰め寄って来る。

「ふーん。何だか思っていたよりも普通ね」

「普通……?」

「ふふふっ、ごめんなさい。私は(りん)、正直者だからホントのことしか言えないの」

 口角を上げながら自分の名を名乗った女性が、意味ありげに笑った。 

「ねえ知ってる。蒼紫は私の事が好きなのよ」

 蒼紫さんがこの人のことを好き?

「蒼紫は昔から私を好きだと言ってくれるのよ。何だって買ってくれるし、甘やかしてくれるの。ふふふっ、あんたなんかより私の方が愛されているのよ」

 クイッと口角を上げた凛さんはとても美しかった。艶やかでくせの無い黒髪、目鼻立ちのくっきりとした顔、スレンダーなボディ、早口で自分勝手なことを言ってくる所はいただけないが、美しい所作から育ちが良いことは分かる。

 私は蒼紫さんと凛さんが寄り添い歩く姿を想像した。それはとてもお似合いで、想像しただけで胸がズキリと痛んだ。私が何も返事をせず呆然といると、凛さんは顎を軽く上げてから誇らしげに自分を語りながら背を向けた。

「まあ、そう言うことだから、分かったら蒼紫の前から消えなさいよ」

 凛さんはカツカツとハイヒールを鳴らしながら帰って行った。

 私はそんな凛さんの後ろ姿を見つめることしか出来なかった。

 それから数日後、副社長室に入室しようとしたところで菫花は立ち止まった。室内から聞き覚えのかる声が聞こえてきたからだ。

「蒼紫、私のこと好き?」

 甘えるような女性の声は凛さんのものだった。

 凛さんが来ている……。




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