命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
§2.第二皇子は本当に冷徹なの?
***

 二日後、フィオラは生まれて初めて王宮の敷地に足を踏み入れた。
 大広間の床は大理石でできており、高い天井には壮麗なシャンデリアが据え付けられている。
 皇帝が暮らす王宮は彼女にとって縁のない場所だったはずなのに、どうしてこんなことになったのだろうと、溜め息を漏らしそうになった。

 おどおどせずに令嬢らしく凛とした空気をまとわせるようにと、ここに来るまでにマルセルとサマンサから何度も繰り返し注意を受けた。
 順応性の高さが自分の取り柄だったはず。フィオラは前向きに思考転換してカリナに成りきろうと努めた。

 (私は公爵家の令嬢。マルセルの娘のカリナだ。侍女のフィオラじゃない)


「偉大なる皇帝陛下にご挨拶申し上げます。お初にお目にかかります。マルセル・ブロムベルクの娘のカリナでございます」

 マルセルとサマンサのあとに続いてフィオラも気品のある声で挨拶の口上を述べた。
 スカートの裾を摘み、顔を伏せて会釈をするのは二日かけて練習したのでスムーズにできた。知的で品のある令嬢に見えているだろうか。

 淡い紫色のドレスはカリナが着ていたものの中からサマンサが選んだ。皮肉にもサイズはピッタリだ。
 屋敷のクローゼットの中にはカリナが一番気に入っていたピンクのドレスが残ったままになっていたけれど、サマンサはあえてそれを選ばなかった。
 思い出深いドレスだから、他人に袖を通させたくなかったのだろう。
 
「そんなに緊張しなくてもいい。……と言ってもそれは無理か。()と初めて言葉を交わすのだからな」

 正面の玉座の椅子に座る皇帝が場を和ませようとしてアハハと笑った。
 あごに髭を蓄えた自分の父と同い年くらいの男性だが、この国のトップに君臨する皇帝はさすがに気品が違う。

「カリナ、これからは妻としてサイラスを支えてくれ。よろしく頼む」
「身に余るお言葉を賜り大変恐縮です」

 カリナの顔は知られていないと聞かされていたが、替え玉だとすぐに気づかれるのではないかと、フィオラは内心恐ろしくてたまらなかった。
 王宮から一刻も早く退散したい気持ちでいっぱいだ。なにかボロが出ないうちに。

< 16 / 54 >

この作品をシェア

pagetop