命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「この髪飾り、もう要らないからフィオラにあげるわ」

 カリナは鏡越しにニコリと微笑み、昨日まで大事に使用していた髪飾りをフィオラに手渡した。

「お嬢様、このような高価な物をいただくわけにはまいりません」

 思わず右手で受け取ってしまったフィオラはあわててそれをドレッサーの台の上に置いた。

「私のような平民が貴族のお嬢様と同じように着飾るなど、もってのほかです」
「いつもそう言ってもらってくれないんだから……」
「お嬢様のおやさしいお気持ちだけちょうだい致します。私にはそれで十分ですので」

 カリナの機嫌を損ねないようにと、フィオラは困ったような笑みを浮かべつつ頭を下げる。
 その髪飾りは蝶の形をしていて、羽の部分にはいくつもの宝石が施されていた。そんなものをうっかりもらったら大変なことになる。

 カリナは生まれながら欲しいものはなんでも手に入る境遇にいるため、身の回りの物に対して執着心がない。
 壊れたり飽きたりすれば新しく買い直したらいいという感覚なのだ。
 今のように要らないと判断すると、それらを使用人たちにお下がりとして分け与えようとするのだが、カリナはいかんせん気まぐれなお嬢様。
 あとになってカリナの両親から盗んだのではないかと、あらぬ疑いをかけられる可能性もある。
 だから絶対にもらってはいけないのだ。侍女頭であるシビーユという中年の女性からもきつく言い渡されている。

 カリナの髪を梳かしながら、もしもあの髪飾りを本当にもらえたとしたら自分はどうするだろうかと、フィオラはふと考えた。
 きっと、里帰りをする際に持ち帰って妹のイルヴァの髪に付けるだろう。
 五歳年下のイルヴァは幼いころから身体が弱く、ベッドで寝たり起きたりの状態が続いている。医者の見立てによると心臓が悪いらしい。

(私なんかよりイルヴァのほうが似合うわよね……)

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