命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
「俺がなぜ仮面を付けているか知っているか?」
「……お顔に傷があるからだと聞いております」
「では、その傷が誰に付けられたのかは?」

 フィオラは目を丸くして言葉を詰まらせた。
 てっきり傷は子どものころに王宮内を駆け回って遊んでいたときに、うっかりできてしまったものだろうと勝手な想像をしていたからだ。
 だがサイラスの言い方だと、事故ではなく故意だという意味に聞こえる。

「知るわけないか。皇后のせいなのはトップシークレットだからな」
「え?!」

 驚きすぎて変な声が出てしまい、あわてて口元を覆った。
 義理の母子であるふたりは昔から犬猿の仲だと聞くので、子どものころになにか大きなトラブルがあったのかもしれない。
 傷がそのときにできたのだとしたら、たしかにそれは気安く口にすることは許されない王宮内の最高機密だ。

「こんなものを付けた俺は恐ろしいか?」

 仮面を指先でコツコツと叩きながら、サイラスがおどけるように尋ねる。
 けれど彼の色気のある目力にはなんとも言えない魅力があり、それに気づいたフィオラは自然と首を横に振った。

「怖くはありません」

 皇后とのいさかいで付いた顔の傷というのは、いったいどの程度のものなのか。
 気にはなるものの、彼が人前で仮面をはずすことはないだろう。今後も見る機会はなさそうだ。

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