命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
§3.決定的な出来事
***

 皇帝が正妃として最初に娶ったのが今の皇后だ。
 そしてすぐに懐妊してミシュロを出産する。世嗣(せいし)の誕生だと皇族や国民は歓喜に沸いた。

 しかしミシュロが生まれてから、なぜか皇帝からの寵愛は次第に薄らいでいった。
 皇帝は次々と側妃を娶っていき、その数が三人になる。
 中でも“最愛の側妃”と言われていたのがマリアンナ妃。サイラスの生母である。
 美しい蒼眼を持つマリアンナは貴族の中でも辺境子爵家の令嬢だが、誰もがうっとりとするほどの絶世の美女だった。

 当然ながら皇后の嫉妬は、皇帝の寵愛を一身に受けるマリアンナに向いた。
 側妃として分をわきまえているにも拘わらず、皇后はなにかにつけて陰で罵詈雑言を浴びせた。
 皇后の実家は公爵家。身分が下である子爵の娘に負けるのはプライドが許さなかったのだ。

「邪魔よ! 私の視界に入らないで!」

 王宮内でばったり出くわすだけで、肩を突かれて怒鳴られる。
 色味が似ているというだけで、新調したばかりのドレスを知らないあいだに切り刻まれたりもしたが、それでもマリアンナは辛抱していた。
 皇帝の寵愛を奪い取られたのだから嫉妬に狂うのも無理はないと、皇后の気持ちをおもんぱかって耐えていたのだ。

 二年後。マリアンナは懐妊し、サイラスが生まれた。
 皇后の目障りにならないようにと、今まで以上にひっそりと暮らしていたマリアンナだったが、嫉妬の矛先はサイラスにも向けられるようになる。

 サイラスが五歳のとき、食事のあとにひどい下痢をして高熱を出したことがあった。
 宮廷医の診察を受けて完治するまでに何日もかかったことから、マリアンナはもしかしたら一服盛られたのではないかと疑った。
 彼女にとってサイラスは、なにものにも代えがたい宝物だ。なんとしてでも守り抜きたい母心が先に立つ。

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