命がけの身代わり婚~決死の覚悟で嫁ぎます~
§4.ふたりの運命は如何に?
***

 フィオラが身代わりとしてローズ宮にやってきてから早や二ヶ月が過ぎた。
 今日は朝からシビーユが訪ねてきて、フィオラの実家から送られてきたものを届けてくれた。
 そういえばカリナの行方はどうなったのか……。なにも聞かされていないフィオラは、まだ捜索中なのだろうと思っておくしかなかった。

 届けられた箱の中には瓶に入ったアカシアのハチミツと、母手作りのミツロウクリームが入っている。

(クリームはリージヤにプレゼントしよう。きっとよろこんでくれるわ)

 彼女がうれしそうに微笑む顔を想像しつつ箱の中身をさらに確認していくと、母からの手紙が入っていた。

『隣国のお医者様に診てもらってからイルヴァの具合がよくなってきました。最近は少しだけど外で散歩したり買い物に出たりしているのよ』

 その文面を目にした途端、あっという間に涙がこぼれ落ちた。

『名医を紹介してくださるなんてさすが公爵様ね。だけど高価な薬代まで面倒を見ていただくのは申し訳ないわ』

 マルセルが交わした約束をきちんと守っているのはシビーユから伝え聞いていたが、母からの手紙にホッと胸をなでおろした。
 親の許しもなく勝手に身代わり婚をした自分は、元気になったイルヴァや両親とは二度と会えないかもしれないけれど、家族が幸せに暮らしているならそれでいい。
 あとの文面はフィオラの身体を気遣う内容や、マルセルへの感謝の気持ちが綴られていた。

「カリナ、入るぞ」

 手紙を胸に抱いてジーンとしていると、部屋の扉をノックしてサイラスが入ってきた。

「どうした?」

 ポロポロと涙をこぼす姿を目にしたサイラスは、動揺しながら静かに尋ねた。

「家の事情で辞めてしまった侍女がいるとお話しましたよね。手紙が届いたんです。病気を患っている妹が回復に向かっているらしくて。よかったぁ」

 フィオラが指先で目元の涙を拭うと、サイラスは小さくうなずきながら微笑んだ。

「君は人間味にあふれていて、本当にやさしい心根をしているな」

 そんなことはないとばかりにフィオラは首を横に振った。サイラスは勘違いをしている。
 侍女の実家を案じて涙していると思われたのだろうけれど、フィオラにとってイルヴァは実の妹だから当然だ。
< 31 / 54 >

この作品をシェア

pagetop