その手で結んで

翔琉という人は

 私の名前は 舞白(ましろ)
 現役女子大生である。もう少し自分の紹介をしようかと思ったが、家に着いたのでやめておく。

 帰るつもりなかったのにな

はぁ、と大きなため息をついた。

 「ただいま」
 ぼそっと呟いて家に入る。舞白の歩く音だけが廊下に響く。そっとドアを開けてリビングに入るとテレビの前に1人の青年が座っているのが見えた。げっ、と言いそうになるのを堪えると

 「おかえり、遅かったね」

 と、青年は振り返りもせず、テレビに向かって言う。
彼の声を聞いて余計にムカついた舞白は、無視して手を洗いにキッチンへと向かった。

 液体石鹸のポンプを強く押して、手を隅々まで綺麗に洗いながら彼のことを考える。

 彼は高校生、母の友達の息子
 名前は 翔琉(かける)
 彼の家から高校が遠いためうちの家に三年間預かることになった。
 愛想よく人当たりがいい好青年、なおかつ顔も成績もいいので両親は実の娘よりも可愛がっていた。
 さすがに私は大学生にもなってるので嫉妬はないが、何というか複雑だ。

 そんなある日、父が転勤になった。
ならば……私もだよね、と聞いたが私は大学があるので却下された。

『お父さんだけ東京にいくなんてずるいわ!舞白はもう大学生だし大丈夫よ、2人で行きましょう!一年たったら帰ってくるわね』
という母の言葉で東京にいってしまった両親。家には舞白と翔琉の二人だけ。
 家族でもなく彼氏でもない奴と二人にするか!!おかしいだろ、おかしいよ。
 まぁ、相手は高校生だ。恋愛対象にはならないし、性格も悪くないので、今まで通りになるだろうーと思っていた…………が、彼は裏の顔を見せだした。

 どうやら彼はとんだ悪魔だった!

 私にたいして冷たいというか、バカにしている。
 『手伝って欲しいなら、「手伝ってください」でしょ?』
 『人は学習する生き物のはずなんだけど、何回黒焦げにしたら気が済む?』
 『5分遅刻。もうすぐ社会人になるんだよね、大丈夫?』
 めちゃくそ腹立つ。床に正座で説教させられるし!
確かに私が悪いと思う部分はあるけどさぁ…………。
 色々あって精神的に耐えられなくなった舞白は友達の家に押し掛けていた。
本当なら今頃友達と楽しく過ごしていただろうに。
 『家に帰らなかったら、あんたの大切なDVDが割れるよ』
 と、翔琉に電話で脅された。
 私はそれを聞いて一目散に走って帰ったのだった…………

 私を家に引き戻す理由がご飯を作る人がいないからって、自分で適当に作っとけよぉおお!!
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