僕の秘書に、極上の愛を捧げます
アップルパイの紙袋を手にオフィスに戻り、『秘書 宮田 翔子』(みやた しょうこ)と書かれたネームプレートを着けて役員フロアに向かう。

「戻りました。もし良ければ、先にお味見されてはいかがですか?」

「え、僕の分もある?」

「もちろんです。専務はお話し中に召し上がることはないでしょうし、支店長が感想を述べられた時に、食感や味が分からないと会話が弾まないかと・・」

「それもそうだね。あ、僕は半分でいいから、残りは宮田さんの分だよ」

そう言われて、私は苦笑する。

『毎回全量を味見してたら、スーツがきつくなりそうだから。宮田さんがリサーチ込みで半分食べてくれると助かるよ』

専務は、私のスイーツショップリストが自ら食べ歩いて作られたものだと知っていて、カロリーオーバーにならないよう、普段の食事を減らしていることにも気づいている。
秘書の栄養事情を、専務なりに心配してくれているのだ。

「後ほどコーヒーをお出しするので、今は紅茶で」

私は、切り分けたアップルパイと紅茶をテーブルに運ぶ。
サクサクとパイ生地が崩れる音と、それを食べる専務の目元が緩むのを見て、私も思わず笑みを浮かべた。

「美味いなぁ・・これは支店長の口にも合うよ。あ、そうだ。宮田さん、来週食事に行かないか? 社長が接待に使いたいから、下見に行って来いという店があって」

「ありがとうございます・・。でも、私などがご一緒して問題無いのでしょうか」

「むしろ一緒に来てほしい。相手が男性とは限らないから、味付けとかボリュームとか、あとは化粧室なんかの設備面もチェックしてもらえると助かるんだ」

「専務が、そう仰るのでしたら」

これは仕事なのだと自分に言い聞かせつつも、専務からのお誘いに心が揺れるのを抑えきれなかった。



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