僕の秘書に、極上の愛を捧げます
第1章

Side 翔子

私は、専務の秘書になる少し前に30歳になり、それを機に考えを変えた。

『自分の感性に従う』

それまではとにかく必死で、身の回りのものも手に取るものも実用性を重視していた。
洋服やコスメに始まり、資格取得や情報収集もそうだった。

けれど、いつになっても気持ちに余裕が持てないことに気づき、なぜだろうと思っていたのだ。

良くも悪くも、誰かに従ってばかりだった。
職業柄というのもあったかもしれないけれど、常に相手を優先しすぎていた。

それからは、最低限守らなければならないルールや、必要不可欠なルーティンは継続しつつ、自分の好みも取り入れた。

ブラウスにスカートばかりだった日常は、スーツの日もあればニットにパンツの日もある。
目立たないデザインの5センチヒールのパンプスは処分し、7センチ以上のハイヒールやオシャレなレザースニーカーも手に入れた。

それに合わせて髪を緩く巻いたり、まとめ髪にアレンジしたり、メイクも少しずつ変え始めた頃から、社長の反応が変わった。


「宮田、どう思う? あの社長の口に合う茶菓子、何かあるかな・・ありきたりじゃないものがいいんだが」

社長の第一秘書はベテランの男性で、いつも社長に意見を求められ "片腕" という存在だ。

私は社長の秘書というより、まるで第一秘書の雑用係のようだったから、社長に『どう思う?』なんて聞かれ、心臓が飛び出るかと思った。

「ええと、そうですね・・。先方の社長は将棋がとてもお好きだと記事で見かけたことがあります。タイトル戦で棋士がおやつにしたという "勝負スイーツ" をお出ししてみるのはどうでしょう?」

「勝負スイーツ・・それは、すぐ手に入るのか?」

「確か先週のタイトル戦は都内のホテルだったので、よろしければ明日にでもご用意しましょうか」

「いいな、試しに食べてみたい。宮田、よく勉強してるじゃないか」

思わぬところで社長に褒められ、恐縮しきりだったのを覚えている。



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