僕の秘書に、極上の愛を捧げます
私はスケジュール調整をしつつ、彼からの連絡を待っていた。
でも、もう10時45分・・。この時間だと、既に搭乗して機内にいるのではないだろうか。

「嘘つき・・」

思わず言葉にしてしまう。
電話してくれるって、言ったのに・・。

何だって良かったのだ。
電話じゃなく、メールやメッセージのひとつでも。

そんなに時間の余裕が無いのだろうか。
そんなに、私より・・大事なことがあるのだろうか。
今頃、ふたりで隣同士のシートに座り、これからの予定でも話しているのだろうか。

だとしたら、私は・・。

「ああー、もう」

出ない答えに意識を向けるよりも、別のことにエネルギーを使うべきだと考え、彼が次に手掛ける予定のプロジェクト資料を整理し始める。

優先順位を考慮してファイリングし、関連のある企業については、すぐに連絡が取れるように担当者を追記してメールの下書きをつけた。

コンコンコン。

ノックの音が聞こえて立ち上がると、入ってきたのは・・遠藤だった。
約束は無いはずだけれど、何だろうか。

「どうも。あれ、成宮専務は? 今日の午前中はオフィスにいると聞いていたけど」

「あ・・その予定だったんですが、お昼前に急遽ニューヨークに出発されまして・・」

「え・・それ、どういうこと?」

「実は・・私も状況がよく分かっていなくて・・。急に行くことになった、後で説明すると仰ったきり、もう今はニューヨーク便の機内にいるかと」

遠藤は一瞬不思議そうな顔をしたものの、私に近づいてきて顔を覗き込んだ。
初めて見るような優しい表情に、思わずドキッとする。

「あの・・遠藤・・さん」

「遥希でいい。専務は、翔子に理由も言わずに、前川 理紗とふたりでニューヨークに行ったんだろう? 翔子、俺とやり直そう」

はっきりと拒むべきだと分かっていたけれど、私は遠藤を前にして戸惑っていた。



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