僕の秘書に、極上の愛を捧げます
『俺とやり直そう』という言葉に反応したわけではなく、『理由も言わずに、ふたりでニューヨークに行った』ことが受け入れられなかったのだ。

「専務がいないなら少し時間もあるだろうし、俺とのこと本気で考えてみて。今日は、今から別の企業とのミーティングがあってそっち行くんだけど、今度晩メシでもどう? また・・連絡するよ」

遠藤は私の返事も聞かず、急いでいたのかすぐに役員室を出ていく。

元カレ・・か。
家族でもなく、友達でもなく、ただの知り合いでもない。

ふと、そういえば・・と思った。
私は彼にとって、いったいどういう存在だったんだろう。
『恋人』・・だと言っていなかった?

「訳が分からないよねぇ、ほんと」

整理した資料をキャビネットにしまうため、私は彼のデスクの横を通った。
急いで出かけて行ったからか、1番上の引き出しが少し空いている。

「セキュリティ違反じゃない・・まったく」

苦笑しながら、スペアキーを使って鍵を閉めようとした時、薄いピンク色の箱が見えた。
いけないと分かっているものの、思わず引き出しを引いた。

「あっ・・」

箱にかかったリボンには、私もよく知っているジュエラーのロゴが印字されている。
箱の大きさや厚みを考えると、指輪ではなさそうだけれど。

誰に買った贈り物なのだろう。
私? それとも・・。

私じゃないと知った時の怖さはあるものの、確かめずにいられなかった。
手がかりなんて、何も無いかもしれないのに。

そっと箱に手を伸ばし、取り出す。
箱の裏も側面も見たけれど、やはり何のヒントも無い。

「当然か・・」

これがもし私に向けられたものだったら、少しは気が晴れただろうか。
むしろ、理紗さんへの贈り物だと明確に分かれば、気持ちが吹っ切れただろうか。

私は深いため息をつきながら、箱を戻してキャビネットを施錠した。



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