僕の秘書に、極上の愛を捧げます
ランチを持ってホテルに戻ると、ちょうど一区切りついたのか、彼がコーヒーを淹れてくれると言う。

「ありがとうございます。専務」

業務中だから『専務』と呼んだのだけれど、彼は苦笑いしつつ、両手に持ったマグカップをテーブルに乗せた。

「ランチタイムは、上司なのか恋人なのか・・どっちの立ち位置が適切なのか難しいな。ところで翔子、これ・・何? もしかして、外で誰かに声を掛けられた?」

彼の表情に焦りが見える。
数字の羅列してあるメモを見て、私が情報屋と接触したと思ったようだ。

「いえ、違うんです。お花屋さんで困っていた年配の女性に声を掛けて・・・・」

少し前の出来事を彼に伝える。

「そうなんだ・・日本人女性ね・・・・。念のため、用心した方がいいな。電話はプライベートの番号からじゃなく、この部屋から掛けるんだよ。もし・・会いたいと言われたら、俺が一緒に行くから」

「はい。夕方、専務がホテルに戻られたタイミングで電話するようにしますね」

その後はランチをとりながら午後の予定を打ち合わせ、彼はアポイントメントがあるからと出掛けて行った。


私は指示された業務をこなしつつ、気分転換にホテル周辺のレストランやスイーツショップリストを眺めていると、ドアベルの音がした。

こんな時間に誰だろう・・と不思議に思いつつ、ドアの近くに寄る。


「恭介」


近寄る気配を感じたのか、ドアの向こうから声がした。
彼を『恭介』と呼ぶ、この声・・。

「恭介、私よ。近くまできたから、恭介の好きなスイーツを持ってきたわ」

顔を出すのは気まずいものの、黙っているわけにもいかずドアを開ける。

「あなた・・どうしてここに・・」

あまりに想定外だったのだろう。
ドアを開けて顔を覗かせた私を見て、一瞬にして理紗さんから笑顔が消えた。



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