僕の秘書に、極上の愛を捧げます

Side 翔子

ニューヨークに来てから1週間ほど過ぎ、ホテル住まいにも少し慣れてきた。

彼は1日のうち数時間を現業に充て、私はその時間に指示を受けながら、終日彼の部屋のデスクスペースで業務をしている。

彼はその数時間以外を全て事業譲渡に関する業務に費やしていて、前職のオフィスに出向いたり人に会ったりしているようだった。

今日、ランチの時間はホテルにいるらしく、私はデリにふたり分の食事を調達しに出掛ける。

「何がいいかな・・」

店の外に出ているランチメニューを見比べながら通りを歩いていると、少し先にあるお花屋さんの前で、年配の女性が店員に捲し立てられているのが見えた。
『困ったわ・・』と日本語が聞こえて、思わず近づいて声を掛ける。

「あの・・どうされました?」

「あぁ、えぇと、お見舞いのフラワーアレンジを作ってもらったのだけど手持ちが足りなくて・・アレンジを小さくしてほしいと頼んだら、忙しいから無理だと断られてしまって・・」

女性は困り顔で言い、店員は払ってくれと言わんばかりに私を見る。

「足りないのはいくらですか?」

「5ドルなんだけど・・」

私は財布から5ドル紙幣を取り出し、直接店員に手渡した。
無事、お見舞いのフラワーアレンジが女性の手元にやってくる。

「ありがとう。見ず知らずに方なのに本当にごめんなさい・・巻き込んでしまって」

「いえ。病院は、ここから近いんですか?」

「ええ、通りを渡った先にある総合病院なの。いま夫が入院していて」

女性は頬を染めて、とても可愛らしく微笑んだ。

「そうでしたか。早く退院できるといいですね。・・じゃあ、私はここで」

立ち去ろうとした私の手に、彼女は走り書きしたメモを握らせる。

「いつでもいいから、ここに書いてある番号に電話をちょうだい。お礼がしたいの。必ずよ!」

そう言うと、女性は手を振りながら横断歩道を渡っていった。



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