【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
第37話 ジェセニア・リオス伯爵令嬢
「シェリル嬢。その……あまり」
「どうかなさいました?」

 それからしばらく経った頃。不意にギルバート様は私に声をかけてこられた。先ほどまでは周囲のことを睨みつけるように見つめていらっしゃったギルバート様だけれど、今は何処か弱々しい。……何か、あったのだろうか?

「あまり……その」
「――義兄様(あにさま)!」
「うわっ!」

 ギルバート様が言葉の続きをおっしゃろうとした時だった。誰かが、ギルバート様に抱き着く……いや、タックルされてきた。その際にその誰かのドレスがひらりと揺れ、周囲の視線をくぎ付けにする。そして、何よりもその薄めの紫色の長髪はとても美しく、人目を惹いた。

「おい、ジェセニア。こんなところで飛びつくな」
「ごめんなさい、義兄様。ですが……久々に会えて、とても嬉しゅうございましたの」

 そんな言葉と同時に、その美しい髪の持ち主がお顔を上げる。……そのお顔は、まるで女神にも見間違えそうな程美しかった。さらりとした長い紫色の髪は、とても艶やか。おっとりとして見える濃い緑色の目は、宝石にも間違えられてしまいそう。ドレスは濃い紫色であり、全体的に紫で統一されたそのご令嬢は――ギルバート様に対して、それはそれは美しく微笑まれた。

「あら、そちらのお方は……?」

 それからしばらく、私がギルバート様とのそのご令嬢のやり取りを茫然と聞いていると、そのご令嬢は少し首をかしげながらそう問いかけてこられる。……なんと、答えればいいのだろうか。このご令嬢はギルバート様のことを「義兄様」と呼ばれていたこともあり、ギルバート様の妹分……みたいな存在なのだと思う。しかし、私が「婚約者です」と言っていいのかは、分からない。そもそも、私たちはまだ婚約者じゃないし……。
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