【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】

 庭師が道具を取りに倉庫に向かっている間、私は呆然と自分で育てているウィリスローズに視線を向けた。……ウィリスローズは、上手に育てることが出来ればかなりの額で売れたりする。そのため、一獲千金を狙って育てる人もいるらしい。まぁ、私はお金にならなくてもいいと思っているのだけれど。この庭を彩ってくれたら、それで十分。そのためには、綺麗に育て上げなくてはならないのだけれど。

「シェリル様。私は、少しシェリル様の洗濯物を片付けてきますね。クレアが残りますので、何かあれば遠慮なく申し上げてください」
「わかったわ。行ってらっしゃい、マリン」
「はい」

 ウィリスローズを見つめていれば、マリンが後ろからそう声をかけてくる。私の洗濯物全般……というか、衣装の管理はクレアとマリンの仕事。そのため、ほかの侍女は手を付けない。ほかの侍女に任せてもいいと思うのだけれど、二人はその仕事を譲ろうとはしないのだ。

 マリンがお部屋に戻ったのを確認して、私が少し視線を移せばそこではクレアが雑草を抜いてくれていた。ちなみに、今日は曇っているので日傘は差していない。本当は差した方がいいのだろうけれど、私が嫌がったので帽子をかぶるだけにとどめている。だって、日傘を差していると作業がしにくいもの。

「綺麗に、咲いてね」

 手でウィリスローズの花弁を軽くなでながら、私はそんなことをぼやく。つぼみの外側の色は赤紫。花弁の形は……今の段階だとよくわからないけれど、ハート型にも見える。……もしかして、私のギルバート様への想いがお花に伝わったのかな、なんて。

「あとで、肥料もあげなくちゃ。どういうものがぴったり――」
「――シェリル」
「っつ!」

 私が、ウィリスローズにどんな肥料をあげようか考えていた時だった。不意に、私の名が呼ばれた気がした。「シェリル」。そういう風に、私のことを呼び捨てにするのは……元両親と、イライジャ様ぐらい。それに、今の声は明らかに男性のものだった。だったら、イライジャ様……なの?
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