【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
(本当は、こういうのは専門外なのだけれど――)

 けど、最近はよくしてもらっているのだ。少しでも、恩返しをしたいかもしれない。いずれは、この家を出て行くにしても、今だけは、ね……。

「ギルバート様。私――迷惑じゃ、ありませんよ」

 そう思ったら、口は自然と言葉を紡いでいた。本当のところ、使用人たちの図々しさも嬉しかったのだ。実家では、使用人たちは庇ってくれていたものの、どこか一線を引いていた。だから、彼らが引いた一線を超えないようにと私も気を張っていた。それがなくて、楽だというのもある。

「……はぁ?」
「ですので、よろしければ私を街に連れて行ってくださると、幸いです。……私、街が気になります。美味しいものとか、気になります。あ、もちろん料理人の方々のお料理が美味しくないと言っているわけでは、ありません」

 それっぽい理由を並べ、私はギルバート様に「迷惑じゃありませんよ」と伝える。そうすれば、ギルバート様は「……本当、か?」なんて呟かれて私の方を怪訝そうな目で見つめられるので、私は首を縦にブンブンと振った。

「……もちろん、ギルバート様が迷惑なのでしたら、私は無理強いはしません」

 一応、こんな言葉も付け足しておこう。そう思って、私がそうつけ足せば、ギルバート様はしばし考えたのち「……美味しいものを、食べるぐらいならばいいぞ」とおっしゃってくださった。

「視察など行っても暇だろうが、それでもいいのか?」
「はい、構いません」

 暇上等。そんなことを考えながら、私がそう返事をすればギルバート様は「……三日後、午前中の十時に、玄関に来てくれ」と私に告げられた。それは、ギルバート様が不器用にもしてくださったお出掛けのお誘い。

(……なんだか、可愛らしい)

そのお誘いを聞いた私は、そんなことを思った。……いや、十五も年上の男性に「可愛い」という感想は間違えているのかもしれない。だけど、この時の私は――間違いなく、そう思っていた。
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