【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
(絶対に、好きになんてならないんだから!)

 心の中でそう自分に言い聞かせ、私はギルバート様の「行くか」というお言葉にうなずいた。ギルバート様は、私の服装を見られても何もおっしゃらない。……残念、とまでは思わないけれど、やっぱりいろいろと似合っていないかなぁって、思ってしまう。使用人たちは立場上「似合っていない」とは言えないし。

「……シェリル嬢」

 ギルバート様にエスコートされ、馬車に乗り込んだ後、不意にギルバート様が声をかけてこられる。その頬は、どこか赤くて何かがあったのだろうかと思い、私は心の中に疑問符を浮かべる。しかし、ギルバート様は私のことをちらりと見つめられると――。

「いつにもまして、綺麗だな。よく、似合っている」

 とだけ私に告げてくださると、そのまま黙り込んでしまわれた。……似合っている。そのお言葉を聞いた私は、ほっと安心した。……良かった。似合っていないと言われなくて、良かった。

「……本日は、どこに向かいますの?」

 何故か、心臓がバクバクと音を立てる。先ほどギルバート様の褒め言葉の所為だ。それが分かっていたからこそ、自分の心を誤魔化そうと私はギルバート様にそう問いかける。そうすれば、ギルバート様は「領地で、二番目に大きな街だ」と教えてくださる。……えぇっと、二番目だと――。

「二番目ということは、フィヘーの街、でしょうか?」

 サイラスさんに教えてもらった情報を脳内から引っ張り出せば、ギルバート様は「そうだ。よく覚えていたな」と感心してくださった。その褒め言葉は、少し嬉しかったかもしれない。

(こういう風に褒められると……やっぱり、嬉しいわよね)

 実家ではそんなに褒められなかったから、やっぱり褒められると嬉しい。だからだろうか、私は自分の手をぎゅっと握った。なんだか、ここにきて毎日幸せかもしれない。ふと、そう思った。
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