【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
「リスター伯爵領の名産品は、小麦だと聞きました。こちら独自のブランドもあるとか」
「……そうだが、どうしたんだ?」
「小麦の良さを一番活かせるのは、やはりシンプルにパンだと思うのです。ですので私、パンが食べたいです」

 なら、やはりここは名産品を食べるのが一番だろうか。そう思い、私がギルバート様にその意思を伝えれば、ギルバート様は「では、ここらで一番美味いと評判のパン屋にでも行くか」と提案してくださったので、私は静かに頷いた。

「……シェリル嬢は、本当に熱心に勉強しているのだな」

 パン屋に向かって歩く最中、ふとギルバート様はそんな風に声をかけてこられた。……何度も言うように、私は勉強がしたくてやっているわけではない。ただ、使用人たちのその思いやりに応えたいからって言うだけだし、押しに負けたというのも理由の一つだ。そのため、私がその言葉を返せば、ギルバート様は「……いや、よく頑張っていると思う」なんて私のことを褒めてくださった。

「今までやってきた令嬢は、勉強が好きな奴がいなくてな……。サイラスも、シェリル嬢はよくやっていると褒めていたぞ」
「……そう、ですか」
「あぁ、だからもっと自分に誇りを持っても良いと、俺は思っている。……なんて、こんなおっさん予備軍に言われても、迷惑なだけだな」
「……それ、は」

 何故、ギルバート様はご自分をそこまで卑下されるのだろうか? でも、それを問いかけて図々しい女だと思われるのは嫌だった。何故そう思ったのかは、よくわからないのだけれど。だから、私は「まだまだ、お若いじゃないですか」というだけにとどめておく。三十三。まだまだお若い。

「そうか?」
「はい、ギルバート様はまだまだお若いですよ。この間も言ったように」

 視線は前を向いたまま、私はそう続けた。本当に、このお方は自分を卑下しすぎだ。もう少しでいいから、自信をもたれたらいいのに……。まぁ、私に言われたくないかもしれないけれど。

(でも、ギルバート様って結構素敵なお方なのよねぇ)

 ふと、心の中でそう思ったけれど、その気持ちには蓋をした。……私じゃ、ギルバート様には似合わないから、ね。
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