【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
閑話2 強かな少女(ギルバート視点)
 ☆★☆

「シェリル嬢、シェリル嬢」

 隣ですやすやと寝息を立てて眠るシェリル嬢の肩を揺らし、名前を呼ぶ。しかし、シェリル嬢は相当疲れているのか起きる気配が全くない。馬車はもうすぐリスター家の屋敷にたどり着く。……そのために、そろそろ起こした方がいいのだが……。

(まぁ、こんなにもぐっすると気持ちよく眠っているのだから、起こすのも気が引けるな)

 だが、ぐっすりと眠っているシェリル嬢を起こすのも気が引けた。それに、名前を呼んで肩を揺らしても起きないのだ。こうなったら、何をしても起きないだろう。……それは、容易に想像が出来た。

「旦那様、シェリル様。……おや?」

 それから数分後。馬車が止まり、しばらくして御者が馬車の扉を開けた。すると、御者の青年は一瞬だけ目を見開いたものの、すぐに「……お疲れ、なのですね」と呟いていた。その視線はシェリル嬢に注がれており、視線に籠められた感情は「慈愛」だろうか。

 こうやってすやすやと眠るシェリル嬢を見ていると、いろいろと思うことはある。だが、それよりもシェリル嬢をこのままここで寝かすわけにはいかない。せめて、自室として使わせている客間まで移動させた方がいいだろう。……仕方がない。ここは起こさないように運ぶか。

「おい、ノア。俺がシェリル嬢を運ぶ。お前は、急いでクレアとマリンにシェリル嬢の着替えを頼んでくれ」
「は、はい!」

 俺がそう声をかければ、御者のノアが駆けていく。ノアは今年で十八歳。まだまだ子供っぽく慌ただしいものの、その素直な性格を俺は気に入っていた。……このまま、もうしばらく御者として働いてくれればいいのだが。
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