【完結】年の差十五の旦那様Ⅰ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷だと言われる辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~【コミカライズ原作】
第26話 少しだけ、近づきたい
「まぁ、とにかく。シェリル嬢は、ここで大人しくしていてくれ。俺は、仕事に戻る」

 ギルバート様は微妙になった空気を払拭するように、慌てて立ち上がられるとそのまま踵を返されようとする。……何処か照れたようなギルバート様が、何処か可愛らしくて。私は、無意識のうちに「意地悪をしたい」と思ってしまって。十五も年上の男性に、意地悪なんて普通はしようとは思わない。もしかしたら、この時の私は冷静な判断が出来ていなかったのかもしれない。

「ギルバート様」

 私は、辛うじて届いたギルバート様の服の裾をちょんと握ってみた。そうすれば、ギルバート様は驚いたように振り向かれる。その目は、思い切り見開かれており心底驚かれているのはすぐに分かった。

「……もう少し、お話がしたいですわ」

 少し上目遣いになりながらそう言えば、ギルバート様はまた露骨に視線を逸らされてしまう。そして、それから数秒後「……クレアとマリンが、いるだろう」と絞り出すようなお声でおっしゃった。しかし、この態度は特別嫌がられているわけではなさそう。どちらかと言えば、照れているのでそれを隠したいという意味合いの方が強そうだ。

「いえ、他でもないギルバート様とお話がしたいのです。……少しでいいのです。五分、いえ、三分でも……」

 身体の調子が悪いと、心まで弱ってしまう。そう言うこともあってか、私はいつもならば絶対に言えないようなおねだりを口にしていた。「少しで良い」。その気持ちが伝わったのか、ギルバート様は「本当に、少しだけだぞ」なんて優しいお声で、おっしゃる。その眼差しはとても慈愛に満ちていた。……なんだか、最近こういう表情をされることが増えたわよね。きっと、私のことを「妹」ぐらいには思ってくださっているのかもしれないわ。

< 82 / 157 >

この作品をシェア

pagetop