君はまだ甘い!

第3話 トオルの出番

「淋しそうな人だな」

それがトオルが抱いたマヤへの第一印象だ。
トオルは8歳からバスケを始め、社会人になった現在に至るまで17年間ずっとバスケ漬けの生活を送ってきた。
学生時代は、周りの友人たちがゲームに熱中していたり、その話題で盛り上がっているのを横目で見ながら羨ましく思い、その輪に入れないことに寂しさを感じていた。

社会人になって、ふとしたことから子供の頃の願望が叶ったわけだが、こうやってオンラインで知らない人と繋がって、オフ会などと言うものに参加をするなど、あの頃は想像もつかなかっただろう。

大阪に向かう新幹線の窓際で、トオルは一人感慨に浸っていた。



少しドキドキしながら、指定されたお店の部屋に入ると、三十代くらいの夫婦と中年のイカツいオジサン(?)、そしてその彼と同年代であろう女性がテーブルを囲んでいた。
ボイスチャットで会話をしたのはほんの数回だが、すぐに誰が誰だかは把握できた。
年上ばかりで少し緊張するものの、一人を除いて、みんな悪い人ではなさそうだ。
まだ到着していないようだが、同年代のルイがいるのも心強い。

(”帝王”って人はちょっと怖そうだから、とりあえずご機嫌を損ねないよう気を付けよう)

少し気難しそうな表情で、こちらを上から下まで舐めるように見ている中年男に笑顔で会釈し、呼ばれた席に向かいながら、視線をその隣に座っている女性に移した。

(この人が幹事の○○さんだな。確かこの前ボイスチャットで少しだけサシで話したことがあったっけ)

さっぱりしたベリーショートでナチュラルメイクに、紺色のワンピース。
ゲーム時の会話の様子から、賑やかで気が強そうなタイプの女性かと思っていたけれど、その見た目は年相応の落ち着きがある、どこにでもいそうな普通の主婦といった印象だ。
ただ、彼女の華奢な肩と、何か憂いを湛えたような丸い瞳が、淋しげな印象を彼に抱かせた。
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