君はまだ甘い!
ルイが加わってからは、会話は一気に盛り上がり、普段はあまり自分から発言しないトオルも、その輪の中にいるだけで楽しめる。

最近はバスケと会社の行き来だけの日々が続いていたので、こういった異色の交流は新鮮で、来てよかったと心から思った。
普段飲まないビールも今日はやけに美味しく感じて、気付くともうジョッキ三杯目を飲み干していた。

アスリートなので、普段は飲酒はもちろん、食事メニューにも気を付けているが、今日一日だけはアルコールも揚げ物も解禁とする。

(唐揚げってこんなに美味しかったっけ?!)

次は何を飲もうかな?心地よい酔いが身体を包み始め、ウキウキしながらメニューを手に取ったその時だった。
それまで和やかだった空気が急に凍り付いたように感じられた。
帝王がマヤの発言に対して、咎めるように何やら捲し立て始めたと思ったら、なんとマヤが泣き出してしまったのだ。

(え?あれ、泣いちゃうの?!)

正直驚いた。

(大人でもこんな風に、幼い子のように泣けるんだ…)

元々細い肩がさらにシュンとなって、今にも消えてしまいそうだ。
そのまま部屋を飛び出したマヤを見て、トオルは反射的に立ち上がり、ルイの「あちゃ~~」と言う声を背後で聞きながら、無言で部屋を出てマヤを追いかけた。

(トイレはどこかな?)

一階まで降りて探してみたが、見当たらない。
店内は次々入店する客と、その対応で慌しく行き来する店員達でごった返していた。
その人混みを掻き分けながらやっと見つけた二階の洗面所の前に行くと、ちょうど出てきたマヤとぶつかった。
驚いてこちらを見上げた彼女の目と鼻は真っ赤で、短い髪も相まって、”少年”そのものに見えた。
しかし、彼女は顔を引き攣らせながらもこちらに向かって微笑んだので、その瞬間ドキリとした。
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