百物語。
「ま、待ってよ、みんな!やめよう?よくないよ」

それに焦るように言い出した声に、やはり少年だけが反応する。

「だったら帰れって言ってるじゃん。よくない、んじゃなくて、嫌、なだけだろ」

言うと、ぐっと詰まる。真っ暗な外。誰一人共に置かず、自分のみで帰る道。恐ろしくないはずがないだろう。

観念したのか、少女は渋々その場に座り、しばらく経つと私達を手伝い始めた。

合計丁度100本もの蝋燭に灯が灯った。準備はこれで万端だ。

今更、私は眉を顰めた。本当に今更になってだった。楽しみに思っていたのも確かなことだったのに、自然と眉間に皺が寄る。

何とも言えない感情が心の置くからずくずくと沸いて出る。しかしそれを口に出す勇気は私にはなく、それと同等にある好奇心にかき消されるのを待つだけだった。

蝋燭を囲んで皆で座る。正座だったり、胡坐だったり、それは様々だ。個性の問題だ、私にどうこう言える問題ではないだろう。

私は両膝を抱えて、可笑しくはないはずの体育座りというものをしながらじっとその様を見つめる。

一つならば趣もあったであろう炎は、百もの数のせいか不気味に見えた。それ以上に、それに照らされたクラスメイトの顔が不気味だった。けれどそれは私にも言えることなので黙っておく他ない。

知った顔ばかりのせいか、不気味ではあるが恐ろしくはない。

「じゃあ、始めよう」

もう一度そう言って、少年は一つ、蝋燭を手にした。火が揺れて、赤いものと青いものが交互に少年の顔を照らす。なんと神秘的な光景であったか。

そして少年は、これからの私の未来を大きく変える一言を、その夜、言ってしまったのだ。

「―――――-百物語を」



 
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