きみのためならヴァンパイア



「ちょっと、あの……紫月?」


私は布団の中で、無言の紫月に強く抱き締められている。

背中に感じる彼の体温をとても熱いと感じるのは、状況のせいもあるかもしれない。


紫月は、私のうなじに顔を埋め、それから何度も甘噛みをしながら首筋を噛む。

そのとき、感じたことのない鋭い痛みが走った。


「いたっ」


私が思わず声を漏らすと、彼はすぐに口を離す。


「……悪い。今、無理だ俺。近寄んないで」

「無理って……ほんとに大丈夫? 病院とか――」

「こっち見んな」


紫月に、顔を手のひらで覆われた。

私はすぐにそれを無理やり引き剥がす。


「なんでよ、心配なの」

「……お前を見てると耐えらんねぇって言ってんだよ」


そんな言葉の後、紫月からもらったのはデコピン。


「いぃったぁ……」


さっき噛まれたときよりこっちの方がずっと痛い。


「寝てれば治るから、ほっとけよ」

「わ、わかった……」


ここはおとなしく引き下がろう。

無理に留まれば、貧血待ったなしかもしれないし、デコピンくらいじゃ済まないかもしれない。

私が部屋を出ようとしたとき。


「おい、それは置いてけ」

「……お粥? 食べてくれるの?」


同居生活の中で、紫月が好むのは濃くて刺激のある味だとわかった。

だから、お粥なんてやさしい食べ物は拒否されるかもしれないと思ってた。


「お前が作ったんだろ、食う」

「あ、ありがと」

「……なんでお前が礼を言うんだよ」


そんなの、うれしいからに決まってる。


こんなときなのに、私は紫月になにもしてあげられていない――そんな風に思ってた。

体調が悪いなんて、全然気づかなかったし。

でもちょっとくらいは、役に立てたのかな。


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