Snow blossom

第46話

カラオケの個室の中。
雪は、タッチパネルをぽちぽちと
タップして、好きな曲を探した。

隣でハンガーにジャケットをかける桜。

一緒に来るはずだった亮輔は、
2人の邪魔はしないよと帰っていった。

なんとなく、心なしか寂しくなる雪は、
スマホを見ながら何の曲を聴いていたか
確かめる。

桜は、カラオケの食事メニューをぼんやりと
見つめていた。

「カラオケ、久しぶりだよな。
 あの時以来だよな。」

 あの時とは、2人きりで来た時に
 偶然にも瑞希と菊地に会った日だ。

 思い出して、桜はぼんと顔が猿のように
 赤くなる。

「何、赤くなってるの?」

「え、いや、そのぉ…。」

「すぐそういう考えするんだから…。」

「えー、そういう考えって?」

「あー、この機種、ボーカロイドの曲
 少ないなぁ。ものによってはSNSで
 流行ってる曲が入ってるのも
 あるんだよね。」

 急に歌の話になる雪に桜は
 この気持ちの置き場に困った。

「そ、そうだよね。
 雪は、ボーカロイド好きなの?」

「うん、少しね。
 いろんな曲聴くんだけどさ。」

「そうなんだ。
 私はメジャーなものしか
 聴かないからなぁ。」

 スマホをいじり始めて、
 曲の検索をし始めた。

「…じー。」
 
 声に出して、雪は、桜の隣に近づいた。
 スマホで何を見ているか気になった。
 他に連絡取ってる人いるのかと
 想像するくらいだ。

「桜って、まめだよな。
 すぐ、メッセージに返事してくれるから。」

「う、うん。
 なるべくはすぐ返す方。
 気づかないときもあるよ。」

「ううん、全然。
 それだけで嬉しいって思う。
 俺、まめにできないけど、
 受け取るのは良い。
 本当にありがとう。
 あ、でもごめん。すぐに返せなくて。」

「そう?
 一方通行で迷惑かなって思う時あるけど
 喜んでくれてるなら良かった。
 でも、確かに返事もらえない時は
 悲しいかな…。」

 桜は寂しそうな顔をした。下を向く。
 横から顔を覗く。雪が至近距離すぎて
 緊張する。

「会ってる時は大事にするからさ。
 許してよ。
 どうしてもまめにできないんだよ。」

 「え、うん。
  わかった。そうならば…許す。」

 雪は桜の顔に近づいた。
 お互いの鼓動が聞こえるようだ。

 左手を右頬に触れた。
 恥ずかしくなって、前髪で目を隠した。

「桜、顔あげて?」

「え?」

 ふんわりと柔らかいものが唇にあたる。
 さっき飲んだメロンソーダの香りが
 ただよう。
 
 選曲しないまま流れる映像は、
 まだ売れていないアイドルが
 自己紹介していた。

 どんな話をしているか
 なんて覚えていない。
 無我夢中だった。

 2人きりになれる場所なんて少ない。
 歌うことより寄り添って、お互いの
 胸の高鳴りを確かめあうことの方が
 大事な気がした。

 タイミングよく、カラオケランキング
 情報とともにオルゴールが流れて、
 癒された。 


 このまま時間が止まってしまえば
 良いのにと思ってしまうほどだ。


 
< 46 / 73 >

この作品をシェア

pagetop