暴君御曹司のお気に入り
「キャラメルフラペチーノお願いします」

簡潔に注文を済ませた私の後ろで、綾川は何やら手こずっていた。

「ブラックコーヒーを寄越せ」

ス〇バを貸切にはしていなかったらしく、身バレ防止のために黒いサングラスを付けている綾川は偉そうに店員に注文をする。

傍から見たら完全に不審者だ。

「580円になります」

「これで」

綾川は高そうな革財布から何やら黒いカードを取り出した。

「え、、、？」

困惑する店員と、その反応にまた困惑する綾川。

「なんだ？ブラックカード知らないのか？」

世間知らずにも程があると呆れながら彼の財布をちらりと覗くと、現金は少しも見当たらない。

「ぶ、ブラックカード、、、ですか？」

子供銀行のお札を差し出してくる子供を見るような目つきで店員が綾川を見つめる。

「、、、あんたブラックカードしか持ってきてないの？」

「当たり前だろ。これで買えないものがあるのかよ」

何を言ってるんだというような表情で綾川がブラックカードをひらひらと見せびらかしてきた。

だめだこりゃ。

「すみません、私が払います」

580円きっちりを店員に手渡し、レシートを受け取って綾川の腕を引っ張る。

「なんでお前が払うんだよ！！ 」

そんな私に不機嫌な声を上げる綾川。

「チェーン店でブラックカードなんて使えるわけないでしょ。馬鹿じゃないの？」

「ば、馬鹿だと？！俺はこう見えて全国模試1位だぞ！」

そんな綾川の見え透いた嘘を聞き流しながら届いたキャラメルフラペチーノを眺める。

「水族館貸切にしてもらったしもう別にいいよ。スタバくらい奢るわ」

「でもお前に貸し作るのは怖ぇよ！」

「今この場で奥歯ねじりとったろか」

尚も食い下がろうとする綾川の手に店員から受け取ったコーヒーを押し付け、近くの席に座る。

「ブラックカードが使えないなんて馬鹿な、、、庶民の店はなんて理不尽なんだ、、」

「いい社会経験になったじゃない」

キャラメルの香りを楽しみながら、コーヒーに手をつけようとしない彼を慰める。

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