暴君御曹司のお気に入り
「そろそろ飲み終わった?」

ス〇バに入店してから軽く1時間は経過した頃、なかなか減らない綾川のコーヒーに痺れを切らして私は思わず声をかけた。

「も、もうちょっとってとこだな!」

とっくに冷めたであろうそのコーヒーはまだ優に半分ほど残っていた。

「あーもう!じれったい!!」

「な、なんだよ!コーヒーはじっくり楽しむもんだろ!」

ぎゃんぎゃん騒ぎ立てる綾川の手からカップを奪い取り、残りのコーヒーを勢いよく飲み干す。

「あっ!!何すんだ!」

顔を赤くして怒鳴った綾川だったが、内心苦手なコーヒーを飲まなくて良くなったことに安心したのかすぐに黙った。

「もう帰るわよ」

長居していた私たちへの店員からの目線は冷たくて怖かったので、半ば引きずるように綾川の腕を引いて店を出る。

ドアを開けると既に空は暗くなりつつあった。

伸びた影を眺めながら並んで歩く。

「今日、思ってたより楽しかった。ありがとう」

「な、なんだよ急に!!!」

綾川が驚いたように私の顔をまじまじと見た。

「私だってお礼くらい言うし」

「ふーん」

少しの間沈黙の時間が流れる。

「、、あのさ!」

なんの脈絡もなく、急に綾川が立ち止まって声を張り上げた。

「えっ!!?なに?」

思わず振り返ると、綾川は真剣な顔でこちらを見ていた。
その眼差しに思わず目を離せなくなる。

「もし良かったら、、、来ないか?」

「え?どこに?」

大切そうなところが聞き取れず首を傾げる。

「だから、パーティーだよ」

「パーティー、、?」

今までの私の人生には凡そ1度もなかったイベントだ。
精々、小学生のときのクリスマスパーティーくらいしか記憶がない。

「ああ。俺の家の会社の創立記念日に、毎年パーティーを開催するんだよ」

庶民は知らないだろうが、という風な口調で綾川が答える。

「でもそれって私が行って大丈夫なやつなの?」

「まあ友達呼んだこともあるし、一般人も全然入れるぞ。ス〇バ奢ってもらったお礼に来てほしいんだよ」

こいつ友達いたのか、、、それもパーティーに呼ぶくらいの親しさの人。
それに、ス〇バのお礼にパーティーなんて大袈裟すぎないだろうか。

「でも、、、」

綾川とはこれっきり会わないつもりでいたのに、、、。

「美味いもんいっぱいあるぞ!どうだ、来たいだろ?」

い、行きたい、、、!!!

綾川の魅力的な発言に、私の躊躇いは一瞬で粉砕された。

「、、まあ行ってやらないこともないわよ」

私の返事に綾川の顔はパッと明るくなる。

「パーティは再来週の土曜日だからな!ちゃんと空けとけよ!!」

はしゃぎ出す綾川をいさめながら歩き続け、人通りの多い道に出るとすぐ駅が見えた。

「それじゃあ私は電車に乗るから、、」

軽く右手を上げてひらひらと綾川に振る。

「おう!パーティの詳細を後でL〇NEに送るからちゃんと読んどけよ!」

「はいはい」

満面の笑みで大きく手を振る綾川に見送られながら、私は駅に向かって歩き出した。
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