麗しの狂者たち
毎年この時期に開かれる九条家と倉科家の交歓会。
開催場所も例年通り都心部にある有名な料亭で、このイベントは私達が生まれる前から習わしとなっていた。
それ程に両家の繋がりには歴史があり、そして、古くから倉科家は九条家に対して忠誠を誓い続けている。
だから、この会食が行われる度に私は亜陽君の許嫁としてふさわしい振舞いをしなくてはいけないし、品定めをされているようで、毎度緊張が走る。
それに、父親が言う今後の事とは、おそらく結婚について。
まだ高校生なので暫く先の話になるけど、二十代前半には挙式をすると前から決められているので、そう遠くはない。
幼い頃から待ち望んでいた夢がいよいよ現実味を帯び始めていくと思うと、段々と胸が高鳴ってくる。
だから、八神君に翻弄されている場合じゃない。
これまで順調に築き上げてきた調和を、彼の好奇心で乱すことは絶対にあってはならないから。
何もかも全て元通りにしないと。
体に残る熱も、頭にこびり付く彼の残像も全て掻き消して、私は亜陽君の立派なお嫁さんになる。
そう改めて認識した途端、脳裏にふと浮かんだ八神君の言葉。
”操り人形”という単語がまるで針のように、固めた意志をチクチク突き刺していく。
けど、何を言われてもこれが私であり、私の生き方だから。
予めステージが用意されているのなら、私は完璧な踊りをそこで披露するまで。
そんな想いを強く胸に抱くと、ようやく両親の目を真っ直ぐ見れるようになり、そこからは普段と変わらない一家団欒のひと時が流れていったのだった。