優しい犯罪
今日は何を教えてくれるんだろう。
「今日は大根煮るわ。包丁を使うから、気をつけて」
包丁…。
どうやって使えば安全か、真剣に聞いて自分のものにしたいのに、刃先を見て母親に包丁を向けられた日を思い出してしまった。
よほど機嫌が悪かったのか、突然包丁を向けて本気で私を刺そうとした。
その時は、学校から帰ってきた妹が叫んで止めてくれたから何もなかったけど、誰も居なかったら死んでいた。
その日の光景を鮮明に思い出してしまって、体が震え出した。
今は私を苦しめるものはない。
そう分かっていても、体は小刻みに震えて、おじさんが母親と重なった。